このページで言いたいことは
「痛みは記憶されるので、我慢してはいけません」
「そのためにはあらゆる手段で痛みを抑えることが必要です」
「痛みどめの薬はけっしてその場しのぎではありません」
ということです。
また、「痛みどめの薬」も1種類だけではないので医師と相談して効く薬を探しましょう。
(→「痛みどめの薬について」)
痛みを感じるしくみ(急性の痛みの場合)
切ったり、ぶつけたり、熱いものを触ったり、血行が悪くなったりしたときには、各種受容体(センサー)がその刺激を電気信号に変換して「痛みを伝える神経」が興奮します。また、傷ついた組織から色々な物質がつくられて(プロスタグランディンなど)それらの物質もほかの受容体を介して「痛みを伝える神経」を興奮させます。
「痛みを伝える神経」は信号を脊髄(セボネの中の神経)に送ります。脊髄では電気信号を化学物質(神経伝達物質といいます)に変えて次の神経にバトンタッチします。この場所をシナプスといいます。
次の神経はそれをまた電気信号へ変えて、いろいろなところを通って脳のいろいろな場所に信号をおくり、痛みとして感じるようになります。
慢性の痛みの場合
組織が障害されると痛みを感じるのはわかりますが、長く痛むのはなぜでしょう?
- 中枢性感作
シナプスでの痛み信号伝達が強くなった状態です。スポーツなど繰り返し練習すると上手くなるように、神経を刺激し続けるとその信号を伝達しやすくなります。
a.シナプスが敏感になってしまっている。
痛みが続くと神経伝達物質が放出されやすくなります。
→少しの刺激で痛い
b.シナプスに痛み専用のセンサー(NMDA受容体)ができてしまう。
いろいろな信号を痛みとして感じるセンサーができてしまう。
→触っても痛い。 - 痛みを脊髄神経が覚えてしまう。
通常の記憶は脳の海馬という場所へ情報刺激が繰り返されることで、神経伝達の増強が長時間起きるようになることでおこります。長期増強現象(Long-term potentiation:LTP)と言います。
痛みの刺激が繰り返されると脊髄に長期増強現象(LTP)がおきます。すなわち、痛みの記憶が脊髄にできてしまうのです。
→いつまでたっても痛い。 - 筋肉の「コリ」の悪循環
筋肉に痛みの原因が発生すると、脊髄への神経反射で筋肉が緊張します。筋肉の緊張が高まるとこれにより痛みの原因物質ができて、神経反射でさらに筋肉の緊張が高まってしまいます。この悪循環が続くと最初にあった痛みの原因が治っても筋肉の緊張が続くことになります。
→いつも肩が凝っている。
痛みを和らげるしくみ
痛みをずうっと感じていると痛みから逃げたりするのに支障が出るので、体には痛みを和らげるしくみがあります。
「試合中はアドレナリンが出て痛みを感じない」などはこのしくみのためです。主な3つを紹介します。
- 下降性抑制系システム
なぜ、痛みを感じるときに神経はシナプスでバトンタッチするのでしょうか?
それは、シナプスで痛みの調節をしているからです。
脳から痛みを抑えようとする信号が出ると信号は神経をとおってシナプスにいきます。そこでセロトニンやノルアドレナリンなどの痛みのつたわりを抑える神経伝達物質が出て痛みを和らげるのです。 - 内因性オピオイド(体内麻薬)
体中に麻薬のモルヒネのような化学物質(オピオイドといいます)で興奮する神経があります。強い痛みやストレスを感じると脳から様々なオピオイドが作られてさまざまな場所で痛みを抑えます。ランナーズ・ハイもこのためです。 - ゲートコントロール
脊髄には痛みの門番(SG細胞)がいて、通常時は痛みの門(ゲート)を閉めています。「痛みを伝える神経」が興奮すると門番は門を開けます。その時「触った事を伝える神経」が興奮すると門を閉じて痛みを和らげます。
痛いところをさすると痛みが和らぐのは気のせいではなく、このためだと考えられています。
「痛いの痛いの飛んでいけ」
当院受付で販売している「ソマセプト」はこの原理を利用しています。
いろいろ説明してきましたが、上記や現在わかっていることで説明できないこともいろいろあります。たとえば痛みの治療で「遠絡療法」という治療があります。痛みを感じている部分と関連する遠い経絡(つぼ)を刺激すると痛みがとれるというものです。なぜでしょう?
治療者としては、常にアンテナをはり、知識と技術をアップデートしていく必要があると感じます。
→「原因不明の痛み」に対する取り組み